春夏秋冬の商い





病室の窓から外を覗くと、目の前に桜の木が見える。



春になれば薄くはかなげで次から次へと慌ただしく散る花びらと青さの足りない女性的な葉で大きな山を造り、


夏になると力強く生きていると主張したがる女勇者のごとき葉が幹を埋め尽くす。



そして秋から冬へと移り行く、眼で確かめるように春のように、


優雅に葉が散り、雪で造られた木が幻想的でありつつも現実的にそびえる。






その木の下で、必ず毎日煙草を煙む人がいた。



メンソールの細い煙草の先から、少し灰色がかった白い煙りを漂わせながら、桜の木を見上げるのだ。



真っ白な病衣を纏ったその身体は思わず眼を背けたくなるほどやせ細っていて、もう長くはないのだということが見て取れる。



しかし、病室にいるときに――


たとえ、同じ病室仲間と自分の身体を嘆いているときでも、たった独りしかいないときであろうとも


――彼がそれを嘆いたり悔やんだりするのを、僕は見たことがなかった。



彼が身体に悪いはずの煙草を吸うのは、強がっているのでも諦め絶望しているのでもなく、ただ吸いたいからなのだと気づいたのは、だいぶん後のことだった。












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