春夏秋冬の商い
「なんでもかんでも校則で縛られるのは僕も嫌いだったよ。そこまで縛らない学校だってあるのに。だけどさ、今なら分かるよ。ようは守ればいいんだ。」
いつだったか、一週間ほど退院許可が降りて学校に行った帰りに病室へ寄ったとき、見舞いの挨拶もそこそこに校則について愚痴を零す僕に彼は云った。
「内容なんてのはどうだっていいんだよ。だいたい学校の学力や校標に合っていて、保護者や教育委員会に文句を云われなければ。守れるか守れないかなんだから、問題は。社会に出ればできるなんてのは、自惚れだよ。自信過剰だ。」
眉間に軽くシワを寄せつつも、悲しげに笑いながら彼は続けた。
「いざとなれば、なんて思ってたらあっという間に終わったよ。全然ダメさ。思ってもいなかったルールに引っかかるんだ。これくらいいいだろうって、ついつい思ってしまう。学生時代は誰にも分からないし、百聞は一見に如かずって云うように、説得して守れるものでもない。」
校則を守れないのは、仕方のないことなのかもな。
最後の方はほとんど独り言のように、呟く声だった。
彼の云わんとしていることは分かるし、彼が自身に自惚れて失敗した行く末が今のこの状態だということも知っている。
だが、どうしても納得できず、愚痴を零してしまう。
彼が最後に云った言葉を言い訳に使うわけではないが、本当にその通りなのだと痛感し、僕は彼から眼を逸らした。
制服を着て一般の人からは劣るものの、さほど細くはなく健康といえば健康的な僕と、常を逸した細すぎる身体を病衣に包んだ彼。
あまりにも、違いすぎた。