執事と共にお花見を。
「今日は、早いのね」


その老人に近づきながら、声を掛けた。


「あんたか……」


桜に、埋もれてしまいそうなほどぽつりとした、弱々しい声だった。


「もう、春が終わるのう」

「ええ。でも……」


その先は、言葉にならず風にさらわれてしまった。


「……咲いたか」


老人は、ぽつりと言った。


「ええ、咲いたわ」

「そうか」


満足げに、老人は微笑んでいた。

初めて、恵理夜はその老人の微笑を見た。
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