執事と共にお花見を。
「ご存知でしょうか。この歌に、返歌があることを」


春樹の、意外な言葉に恵理夜は顔を上げる。


「散ればこそ、いとど桜はめでたけれ、憂き世になにか久しかるべき」


春樹の薄い唇が、深い声を紡ぎ出した。


――散るからこそ、桜は美しい。この憂き世に不変のものなどないのだから


「どうか、意味の無いことなどと仰らないで下さい」


――散ってしまったけれど、やってきたことの意味がなくなることは無い。

――むしろ、散ってしまったからこそ、価値のあることだったのではないか。


真摯に恵理夜を見つめる鋭い瞳は、そう語っていた。

いつだって、恵理夜に真実を与え、目を逸らすことを許さない目だ。
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