執事と共にお花見を。
「見てください」


春樹の示す先には、老人が皮の捲れた桜の樹の根を労わっていた。


「あの桜、まだ花が咲いてないわね」


老人がいたわる桜だけ、生命力が感じられず、弱々しい蕾が一枝、あるだけだった。


「寿命が近いのでしょうか」

「あ、あの人、帰るみたい」


そう話しているうちに、老人は公園から去っていった。


「不思議な、人ね……」


先ほどの台詞をもう一度繰り返す。
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