執事と共にお花見を。
「新学期が始まっても、浮足立っているのはこんなにも桜が咲いているからかしらね」


恵理夜は、手入れのされた庭へ目を向けながら呟いた。


「……世の中に、たえて桜のなかりせば、春のこころはのどけからまし」


春樹は、くすりと笑って囁くように口ずさんだ。


「聞いたことあるわ。在原業平の歌でしょう」

「その通りでございます」

「どんな意味だったかしら」

「この世に桜がなかったら、こんなにも心乱されることはないだろうに、と歌っているそうです」

「桜が嫌いなのかしら?」

「とんでもない。桜があまりにも好きで、いつ咲くかいつ散るか気になってしまって常に心が乱されてる、という意味です」

「面白い歌ね」

「まさに、今のお嬢様にはぴったりかと」


そう言いながら、春樹はそっとお茶を差し出した。
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