執事と共にお花見を。
「じゃあ、あの桜は……?」

「すりかえられた、などという記録もないそうなので実質的には、周囲の桜と同じそうです」

「でも、あの桜の蕾は他の桜とは違う色よ」

「はい、それについても調べました」

「……流石は、優秀な執事ね」


皮肉気な恵理夜の口調にも、春樹は淡々と一礼するだけだった。


「それで?」

「はい。ソメイヨシノ、という品種は非常に突然変異の起こりやすいものだそうです」

「突然変異?」

「遺伝することもあるそうなのですが、多くはその一代だけの変化で終わることもあるそうなのです」

「つまり、深紅色の桜が咲くのも突然変異の結果、ということ?」

「そういうことでございます」

「でも、どうしてあの桜だけ突然変異が?」

「そこまでは……。ついでに、同じときに植えられた桜なのに、どうしてあんな古木のようになってしまったのかも謎ですね」

「それを守ろうとするあのご老人もね」


と、二人は人ごみの向こう側の老人の姿に目をやった。
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