執事と共にお花見を。
桜が舞う。

けれど、恵理夜の心は暗く沈んでいくのを感じた。


「あれ、偶然だね」


ジュースを持った女子が、恵理夜に声を掛けてきた。

先ほどの、囁き声の内の一人だった。

さも、ジュースを手に、偶然かのように恵理夜の前を通り声を掛けてきたのだ。


「こんにちは」


暗澹たる心を悟られないよう、恵理夜は微笑んだ。


「よかったら、私たちと合流しない?」

「ごめんなさい、連れがいるの」

「そう、残念」


全てが、虚構の会話だった。

恵理夜の勘は、彼女の言葉の一つ一つが嘘だと告げている。
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