執事と共にお花見を。
恵理夜は、静かに語りだした。


「ここの桜はね、皆同じ条件の下で育っているはずなの。それなのに、この桜だけ、こんなに老木のようになってしまっているわね」


老人は、聞き入るように、目を閉じた。


「桜の中でもソメイヨシノは特に、傷に弱いのね。枝を折ったり、幹に傷をつけたりするとそこから腐りやすくなる。こんな風にね」


恵理夜は、幹についた傷を撫でた。

するとそこからごっそりと皮が剥がれてしまった。


「そして、この傷は人為的に付けられたものね」


平行に、ある程度の間隔をおいてつけられた傷。


「これ、子供の成長を刻んだものに見えないかしら」


老人の目が開かれる。
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