執事と共にお花見を。
「もう一度、その花を見たかったなぁ……」


老人の瞳から、涙が溢れた。

その桜は、花を生い茂らせることもなく、ただ一枝、弱々しく蕾を湛えているだけだった。

その蕾でさえも、端が茶色くなり始め、もはや枯れようとしているのがよくわかった。


「咲かせるわ」


恵理夜も、涙を流しながら告げた。


「必ず、咲かせるわ」


よく通る、力強い声。

しかし、花びらをすくう強い風に流されてしまいそうだった。
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