誰についてく?
適当な所に自転車を置き、盗まれないように鍵をすると、二人は砂浜の方へと歩く。
「んーっ。この潮風がたまんないっ」
渡辺は両手を広げて深呼吸した。
「やっぱ、海はいいな」
克幸も渡辺の隣で真似して空気を吸い込んだ。
「さっ、ナンパ始めよっか」
渡辺は、そう言うとスタスタと歩き始めた。
「え?おい、ちょっと待てよ」
克幸は慌てて渡辺の肩をつかんで止めた。
「ナンパしないって約束だろ」
「誰がそんな事言ったんだよ」
「お前が言っただろっ。ナンパ抜きって」
「言ったっけなー?そんな事」
渡辺は空を見上げた。
「これだぁ。んじゃ、お前一人でやってこいよ。僕は帰るから」
自転車の方に戻りかける克幸を今度は渡辺が呼び止める。
「あ、おいっ。お前がチャリで帰っちまったら、俺は何で帰りゃあいいんだよ」
「電車でも、タクシーでも帰ればいいだろ」
「そんな金、ねーよ」
「お前、電車代も無くて、よくナンパする気になるな」
「スゴイだろ」
「スゴかぁないよ」
「ま、いいじゃん。一緒に遊ぼうぜ」
「ナンパ以外ならな」
「何でそんなにナンパを嫌がるんだよぉ」
「だから、さっきも言ったろ」
「松浦か」
「そうだよ」
「いいじゃん」
「よかないよ。あいつ、僕の硬派なとこがいいって言ってんだから」
「誰が硬派だって?」
「僕だよ、僕」
「克幸が硬派ぁ〜」
「そうだよ」
「お前、松浦に誤解されてるな」
「どういう意味だよ」
「じゃなかったら、騙してる」
「何が言いたいんだ?」
「女の為に性格変えちまうなんて、良くないよぉ、克幸くん。やっぱ、世の中、愛情より友情だよな、親友の克幸くんっ 」
「…何とでも言え。とにかく僕は帰るからな。ナンパはしない」
克幸はキッパリ言うと再び歩き出したが、渡辺が前に回り込んで立ちはだかった。