誰についてく?
克幸は何となく渡辺に言いくるめられて、海の方へ向かった。
「あ、ほら、あの子たちどう?」
渡辺がショートカットの子とポニーテールの子のスタイルのいい後ろ姿を指差した。
「ん。でも、振り返った時、とんでもなかったらどーすんだよ」
「そん時は『すみません、人違いでした』ってなもんよ」
「そだな」
意見が一致したところで、二人はその女の子たちに駆け寄った。
そして、克幸は、
「ねぇ、ねぇ、彼女」
とポニーテールの子の肩をポンと叩いた。
「はい」
立ち止まり、ポニーテールの子が振り返ると同時に、克幸の顔から血の気が引いた。
「やべっ」
渡辺の声は最早、克幸には聞こえなかった。
「克幸くんっ!?」
振り返ったポニーテールは、間違いなく、松浦宏子だった。
「は、はい」
「もしかして…、これってナンパしたつもり?」
松浦の疑いたっぷりの冷ややかな目に押され、思わず、
「はいっ」
と、克幸は正直に答えてしまった。
「サイッテーっ!!!」
松浦たちが立ち去った後に残ったものは、すまなさそうだが、笑いを堪えきれないでいる渡辺と、左の頬に真っ赤な『もみじ』を張り付けて呆然と立ち尽くしている克幸だった。
−克幸・完−