誰についてく?

武志は右手と右足が一緒に出そうになりながら、その女子の所に近寄った。

「あ、武志くん」

女子はくりくりの目で、にっこり武志に微笑んだ。

「やっ、やぁ、まっ、待った?」

武志はギコチナク笑って見せる。

「ううん。そんなことないよ。武志くんも座ったら?」

「あ、ああ」

武志は向かい合わせの席に座った。

このおかっぱ頭の女子は武志と同じクラスで頭が学年トップクラスの上に、顔もトップクラスのマドンナ的存在、川合ルリコ。

そんなルリコに近づきたくて武志は、ルリコがよく図書館で勉強しているという情報を入手し、一大決心をして、

「一緒に勉強しようよ」

と、思いきって誘ってみたのである。

「私、地理調べてるんだけど、武志くんは、何するの?」

座っただけで何もしようとしない武志にルリコが尋ねた。

つい、ルリコに見とれていた武志は慌てて鞄からノートとペンケースを取り出した。

「えっ、あ、僕は、歴史」

「そう。日本史?」

「うっ、うん、そうそう日本史」

「武志くんて、日本史好きなの?」

「ん?ま、まぁね」

「そうなの?実は私、日本史ダメなのよね。今度、テストの時、覚え方とか教えてね」

と、ルリコは頼もしそうに武志を見つめた。

「あ、ああ。任せてよ」

とは言ったものの、武志が思うに、日本史だって武志よりルリコの方が出来るのは間違いなかった。

「じゃ、私、続きやるね」

ルリコは話を止めてノートを取りはじめた。

武志はそんなルリコをじっと見ていた。

「何?」

武志の視線に気づいてルリコは武志を見た。

「あ、いや。さ、僕も本探して来よう」

武志は席を立って、日本史の棚の方へ行き、ルリコは再びノートを書きはじめた。

武志は熱心に勉強するルリコを棚に隠れながらそっと見た。

「あ〜あ。やっぱり図書館じゃなくて、思いきって遊園地にでも誘えば良かったかなぁ。でもそしたら、もしかして断られたかもしれないし…。けど、やっぱ、あの知的な顔もかわいいよな」

武志は自分の顔がニタニタしてきたのに気づき、ハッとして真面目に本を探した。

「日本史、得意になんないとヤバイぞ」



−武志・完−
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