誰についてく?

信吾3−1


「こんにちは〜」

「いらっしゃい」

信吾の家に母の妹夫婦が、今年の正月以来、久々に遊びにやって来た。

「信吾〜、綾香ちゃん、来たわよっ」

母親に呼ばれて、信吾は2階の自分の部屋で『北斗の拳』の雲のジューザが死んでしまうシーンを感動しながら読んでいたが、パタッと閉じて、

「もう来たのっ?」

と、ドタドタドタっと急いで階段を駆け降り、皆が揃っている居間へ行った。

「おじさん、おばさん、こんにちは」

信吾は軽く頭を下げて挨拶をした。

「こんにちは」

「いやぁ、信吾、見る度にデカくなるな。おじさん抜くのも時間の問題だな」

「うん。寝てる時、関節痛いもん」

「そりゃすごいな」

おじさんと言葉を交わしている時、信吾はおばさんの後ろに隠れている女の子を見つけた。

「こんにちは、綾香ちゃん」

座りながら信吾は、恥ずかしそうにしている、今年4つになる従妹の綾香に声をかけた。

「…」

綾香はママの服をぐっとつかんだ。

「何してるの?綾香。信吾お兄ちゃんよ。覚えてないの?ほら、お正月に福笑いして遊んでもらったでしょ」

おばさんは信吾に気をつかいながら、綾香の頭をそっと撫でた。

綾香はママの服を放して、信吾の前に立った。

「忘れちゃった?信吾お兄ちゃんだよ」

信吾は綾香と顔の高さを合わせてにっこりしてみせた。

「…」

綾香は目の前に現れた信吾の顔をジーっと見てから、

「知らなーーーいっ」

と、大きく一言。

「…」

「お正月に一日会っただけじゃ覚えてないわよね。ねぇ、綾香ちゃん」

力の抜けきっている信吾を見て、ジュースとお菓子を持って来た母親が綾香の味方をした。

「うんっ!」

綾香はにっこり大きく頷く。

信吾はますます傷ついてしまった。

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