ぱちん!
1階の廊下から、お母さんの歓迎する声が聞こえ、私は部屋を飛び出した。
「あ、楓!秀くんが来たわよ」
階段を降りた先にいたお母さんが、私を見つけて言った。
お母さんは昔から、私の秀さんに対する気持ちを知っているようで、ニヤニヤと笑いながら私を見る。
「こんばんは、楓ちゃん。予定もあっただろうに、ごめんね」
「あっ、こ、こんばんは!予定はなかったから大丈夫!」
靴を脱いでいたのか、遅れてお母さんの後ろから秀さんが現れた。
「……あれ、秀さん、髪の毛…」
「ん?ああ、どう、似合う?」
以前会った時は肩くらいまで伸びていて、ダークブラウンに染めていた髪が、顎の辺りまでさっぱりと切られていて、黒髪になっていた。
「うん、とっても!」
「そっか、良かった」
にっこりと笑みを向けられ、緩みそうになる頬を軽くおさえた。
これはこれで、かっこいい。
「さあさ、2人とも。いつまでも廊下で話していないで行きましょ。お父さんが待ってるわよ」
「あ、はーい」
お母さんに促され、私たちはリビングに向かった。
いよいよ、秀さんのお話だ……。