幸せの残量─世界と君を天秤に─
「まあ、それはそうと……亜優美」
「はい?」
「もう質問はないな?」
「まあ…」
本当は聞きたいことなんてたくさんあるけれど。
今はこれだけで満足だから。
「さあ答えろ。お前は誰のものだ?」
一瞬、巧先生の言葉に面食らって、けれどその言葉の意味を飲み込んで口を開いた。
「わた……んっ」
私、と答えようとした素直とは無縁の私の唇を巧先生のそれが塞ぎ、
少し動けばまた触れてしまいそうな位置で、巧先生は再度尋ねた。
「誰のものだって?」
目を開けたまま、ぼんやりとしか見えないのに。
それはまるで素直にさせてしまう魔法のようで。
私は、その魔法に抗う術(すべ)をもっていない。
「たくみ…先生の、ものです」
最後まで言えたかはわからないけど。
けれど、直ぐ様降ってきたそれに、目を瞑ることには成功した。