幸せの残量─世界と君を天秤に─
振り向いて抱き締めたいけれど、巧さんの腕が緩む気配はないし。
仕方ないからそのままそっと腕に触れた。
「ねぇ、巧さん?」
「ん……」
「昨日はその…ごめんなさい」
理由が何であろうと、勝手に踏み込んだのは私が悪い。
「……も、いい。俺こそ言い過ぎた」
すがり付くように抱き着くのは不安だからですか?
背中から伝わってくるのは、温もりと何かに怖がるような震え。
…離れて行く筈などないのに。
「巧さん、私ね、知りたいです。…巧さんが医者になった理由」
「……」
「でもね、今じゃなくていいんです」
もしも今私が知ることがないのなら、それは知る時期は今じゃないってこと。
だけど、いつか一歩踏み出してみせるから。巧さんの領域に、私も入れるように。