幸せの残量─世界と君を天秤に─
さっきまで笑い合っていたのに、今はふたりの間に会話はない。
不機嫌オーラを出して私の手を引く巧さん。
不機嫌なのに、それなのに、歩くペースだけは私の負担にならないように合わせてくれたまま。
あの女の人誰なんだろう、とか。
どうして巧さん不機嫌なの?とか。
デートこれで終わりかな、とか。
そんなことが次々と頭に浮かんでくる。
誰かなんて巧さんが教えてくれなきゃわからない。
あの人は巧さんを不機嫌にさせられる人。
次はいつ遊びに行けるかな。
そんなことも、浮かんで消えた。
視界に映ったゴールドが消した。
巧さんが私を好きでいてくれる。
控えめにその存在を主張するリングが、それだけで良いと言っているようだった。