幸せの残量─世界と君を天秤に─
きっと巧さんは目的地なく歩いている。
ただ、あの女の人から離れようとして。
周りの楽しそうな声が、店内にかかる流行りのJポップが、子供の泣き声が、中学生の笑顔が、メイクの濃いオネーサンの不機嫌な顔が
全て、場違いなものに見えた。
嗚呼、きっと。
「巧さん」
「……なんだ」
「…帰ります?」
きっと場違いなのはわたしたち。
だってわたしたちの居場所は巧さんの家、でしょう?
「…でも」
「私はもう充分楽しみましたよ?」
「…そうか」
「ほら、帰りましょう。少し疲れました」
「そうだな…」
一瞬考える素振りをしてから巧さんは頷いた。きっと私のことを気にしてくれてるんだ。
巧さんはこう見えてとても、とても子供っぽい。
とても子供っぽいけど、優しい大人だったりする。