幸せの残量─世界と君を天秤に─
顔は上げられない。
今すぐ逃げ出したくて堪らない。
……よし、そうしよう。
「それでは失礼しますっ」
速い。
自分でも驚くほど速かった。
なのに、
「待て」
グインッ
「わっ!」
腕を掴まれて、立ち止まってしまった。
腕を掴んだのは勿論巧先生で。
「………」
「………」
「…………」
「……あの、巧先生?」
何故に無言なのでしょうか。
捕まれた手は心なしか熱を持って。
巧先生の冷たい指が心地よくて、
逃げ出したいけど、放してほしくはなかった。