幸せの残量─世界と君を天秤に─
「どうしてもと言うのなら、お前にやってもいい」
「ふはっ……巧先生らしいです」
その整った口から紡がれた言葉はあまりに巧先生らしくて、私の心を軽くした。
「亜優美は俺のものか」
「愛に見返りは求めないものですよ」
「断る」
あ、その返しはちょっと予想外でした。
本当はこんな私を求めてくれるだけで、涙が溢れそうなのに。
「…その前に、ひとつだけ聞いてもいいですか?」
心臓が壊れそうなくらい、緊張しているけれど。
「……何?」
これを聞かなければ、きっと前には進めないから。
「……『花菜』さんって誰、ですか?」
いつかきっと、笑える日がくるから。