フラワーデイズ
しばらく走っていると、園内放送が流れ出した。

『迷子センターから迷子のお知らせです』

きっと葵だわ!!

私は走らせていた足を止めて、人の声でかき消されそうな放送に耳を傾けた。

『赤いリュックを背負った、5才の相沢葵ちゃんが迷子になっています。お父さんとお母さんは急いで迎えに来てあげてください』

私は迷子センターに向かって、再び走り出した。

こんなに全力で走ったのは、きっと高校の時以来だろう。

大人になると何かに向かって全力で走ることは少なくなる。

これも歳のせいだろうか。

人生において目標がなくなることはないはずなのに…

歳を重ねるごとに人は走る速度を緩めていく。

立ち止まってしまう人もいれば、懸命に走り続ける人もいる。

私は一体どちらの人間なのだろう。

止まってはいないと思いたい。

でも、実際に足元を見るとその足は本当に動いているのか。

夫と娘という大切な、かけがえのない存在ができた私は、決して足を止めてはいけない。

妻として、母親として、これからも走り続けなければいけないのだ。


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