Departure

学校からバスでおよそ約二十分、二人は寄り道することなくその場に降りた。広々とした敷地面積に立つのは市内の総合病院。いつのまにか通いなれた場所になっていたそこはこの日も変わらず穏やかな日差しを浴びている。なんとも言えない気持ちとはまさにこのことだ。

病棟の方へ向かいながら、なんだか落ち着きのない蒼を見つめ彼女はそっと後ろを歩く。大きな背中はいつもより少し緊張しているように見えた。

毎月第一、第三木曜日は必ずここに来るとみんなで決めていた。残暑も過ぎた9月中頃、今日はその第三木曜日。はたから見れば健全な学生達がなぜ毎月のように病院へ通うのか。理由は誰かに義務付けられているからでも単に習慣になっているからでもない。もしかしたらこの先にある微笑みに吸い寄せられているのかもしれないが、それも含めて全ては自分達の意思だった。

病棟に入った蒼は誰に挨拶するでもなくそそくさと六階の病室へ足を運んだ。名札の確認もせずノックをし、ドアを開ける。

「花……」

動く口元とは反対に身体が動きを止めた。
清潔感漂う小さな個室に、取り替えられたばかりのようなシーツと畳まれた毛布。枕に背をもたれかける少女の姿はそこには無く、脳裏に焼きついている笑顔も今は見当たらない。

「花ちゃんどこに行ったのかな」

蒼の後ろからこっそり部屋を覗き込んだらしく、心配そうに呟く彼女。蒼は何も言わずに辺りをキョロキョロと見回し目に付いた看護婦の方へ声をかけた。

「すみません。605号室の芹澤花さんはどこに……」

看護婦は一瞬考える素振りを見せたが次の瞬間には不審な者を見るような目つきを見せた。

「芹澤さんでしたら先日別室の方に移動されました。ですが今はご家族の方以外の面会は許可されておりません」




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