Departure

二人は来た時と同じエレベーターに乗る。十五階のボタンを押した蒼の左隣で俯く彼女の不安げな表情は未だ消えていない。両手でカバンを抱え彼女は口を開いた。

「花ちゃん……何か、あったのかな……」

蒼は黙ったまま彼女を横目で見る。

「あったわけじゃないよね……きっと」

花を信じたいというよりは何も信じたくない、もしくは信じられないという気持ちが伝わってくる。
無表情のまま彼女から視線を外し、今度は少しばかり上を向く蒼。

「冷静に考えれば……何かあってもおかしくはないだろうな」

さっきまでの落ち着きない様子もなく静かに言った。無意識に眉間にシワが寄る。

分かってはいるけれど、分かっていても分かりたくない現実がそこにあった。気付かないふりをしてもそれは徐々に悪化していく腫瘍のように逃れられない現実となって自分達の目の前を阻む。強くなくてはならないのは花自身だけではなく周りも同じだった。こんな時になって気付くとはなんて馬鹿なのだろう。

黙り込んだ二人はじっと動かぬまま。その間にもエレベーターはゆっくりと上へあがっていく。
10、11、12……
途中で人が乗ってくることもなくそのまま順調に昇り続ける。蒼は数字を見ていた。やがて十四のところで光が点滅しかけたその時、事態は急変した。






―ドクン




何か奇妙な音が響き、体がふわっと浮いたように感じた直後
エレベーターが大きく揺れた。

< 6 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop