Departure
「きゃっ」
バランスを崩した彼女が足をふらつかせ膝をつきそうになる。それを反射的に支える蒼。今の出来事で電気がイカれたのか、エレベーターの中は薄暗くなりわずかに二人を照らすのは天井上の一部の蛍光灯だけとなった。その光さえ今にも落ちそうで付いては消え、消えては付いてと繰り返している。一体何が起きたという。これはいわゆる故障というやつなのか?まさか。
蒼の腕の中に小さく納まる彼女。二人は互いの顔を見合わせた。
「これって……」
「なんなんだ、一体」
突然の不自然な振動で完全に動きを止めてしまったエレベーター。先程の沈黙を思い出させるかのようにその場は静まり返っている。予想などするはずもなかった出来事に冷や汗をかきそうだ。だがこのままここでじっとしていてもこいつは動いてくれそうにないだろう。彼女をこれ以上不安にさせるのも申し訳ない。
「とりあえず……助けを呼ぼう。大丈夫か?」
「うん。えっと、ありがとう……」
遠慮がちに蒼から身体を離し彼女はそう言った。
「日頃のメンテナンス不足といったところならいいけどな。さっき、変な音がしなかったか?」
「……え?」
「あ、いや悪い。……なんでもない」