Departure

彼女の不安を煽ってしまっただろうか。エレベーターが落ちた時何かが響いた気がしたのだが、多分気のせいかもしれない。余計なことは言わないでおこうと蒼は口を閉じた。細かいことはともかく、この危うい蛍光灯の光が消えてしまう前に今は早くここを出てひかるの父親、院長に話を聞きに行かなければ。
念の為携帯を確認してみるとやはり電波はなく圏外と表示されていた。こんなシーンをテレビ越しではなく現実で見ることになろうとは。実に笑い難い。
蒼は手を伸ばした。薄暗い中でもなんとなく分かるそれは、中央に受話器のマークが書かれている。こんな時こそ頼れる非常用の呼び出しボタンだ。蒼は人生で初めてそのボタンを押した。

「・・・・・・」

しかし、おかしなことにそれは何の反応も示さなかった。ベルが鳴るわけでもなく、監視センターに繋がる様子も無い。停電のせいか?いや、停電の場合でもバッテリーでなんとか通話できるはず。電話回線が壊れているなんてことは……ありえなくないが考えたくもない。やけくそに蒼はもう一度ボタンを押した。隣で彼女が何か言おうとしたようだが、異変は起きる。別の方向で。

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