【短編】じゃんけん王
準決勝
準決勝
和紀は極度の緊張と疲労を感じていた!
(まさかほんとうに自分がここまで残れるなんて…)
史上最大のじゃんけん大会で準決勝に進み、地に足が着かない状態になっていた。
手に汗を握る展開とはまさにこの事だが、じゃんけんを出す右手は緊張で冷たくなっていた…
やはり今日の朝見た夢は、正夢だった!
そしてその夢の続きが今こうして、現実の勝負にバトンを渡した!
和紀はここまで来て、舞い上がる訳にはいかなかった!
パソコンの初登録の一回戦から数え、これでもう19回戦目になり、和紀らの数人の背中には100万人の人々の思いが、積み重なっていた!
その重みを考えると、情けない終わり方だけはしたくなかった。
和紀は冷静さを取り戻そうと、足元を見つめ直した!
そして天井を見上げ、幾分落ち着きを取り戻した後、ふと視線を下げると、準決勝の相手はすぐ目の前に立っていた!
まだ年端もゆかぬ小さな女の子だった。
その活躍を見ていなければ、出場者の子供と勘違いしたはずだ!
その屈託のない笑顔は、この大会の持つ意味など到底理解していないのがとって見えた。
しかしそれゆえにプレッシャーなどは、全くの無縁でここまで勝ち進んで来たのだろう!
名前は、音(おと)ちゃんと呼んでいた。お父さんに抱っこされている下の女の子は奏(かなで)ちゃんと言っていたので、音楽好きな親がその名前を付けたのだろう!
やはり名前のとおり、そのリズム感が勝負に生きたのか、テンポよく勝ち進んできたようだ。
その無欲さから来る強さはある意味、最強の相手かも知れなかった!
両隣にいた両親が少し青ざめた顔で女の子の手を握りしめていたが、その子供はニコニコとした表情で、両親の手を鉄棒がわりにして、蹴上がりのような格好を何度も繰り返していた!
さすがに子供でもこの雰囲気を感じ取り、少しは怖じけづいても良さそうなものだが…
この子は将来相当な大物になるに違いなかった!