【短編】じゃんけん王
最後の戦い
最後の戦い
和紀はおもむろに立ち上がり、『よしっ』と気合いを入れ、決勝の舞台へと駆け上がった!
彼は以前、この感覚をどこかで味わった気がした。(これがデ・ジャブというものなのか?)
和紀は記憶を混同させながらも、動揺を消し去ろうとしていた。
老紳士はジャンケンガールの付き添いを丁重にお断りし、決勝戦だけの為に用意された特設ステージに続く階段を、一歩ずつ踏み締めながら登って来た!
バミ位置近くまでくると気配で解るのか、和紀の立ち位置に併せて半歩横に移動し、真正面に向きあった。
そしてゆっくりとした動作で、杖を左手に持ち替え、右手で握手を求めてきた!
和紀はその見えているかのような落ち着いた振る舞いに、早くも飲まれてしまっていた。
そして、老人とは思えないその温かく柔らかい手を握った時、よりいっそう和紀の体は硬直していった。
…このままでは太刀打ち出来そうになかった。
(…とりあえず勝負に集中しよう)
和紀は不安を振りほどくかのように、勝負にだけ集中した。
しかし勝負事は、一点集中にこそ落とし穴があった。
それは裏を返せば、回りが何も見えていない事を意味しているのだ!
本当はこの老紳士のように、しなやかに柔らかく身体を開放し、回りの雑音は気にならないが、針が落ちた音にも反応できる…そんな集中が一番ベストなのだ。
和紀は一点集中でますます体を硬くさせ、重いだけの動きづらい鎧を身に纏った。
…そんな状態で、この盲目の老紳士に敵うはずがなかった!
…
…
ついに自分のペースも掴めないまま、成す術もなく2連敗し、絶体絶命のピンチに立たされた。
このままの状態では、奇跡でも起きない限り、今からの3連勝は無理だった…
和紀は無神論者ではあったが、その時ばかりは神様に奇跡をお願いをした!
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決定