【キセコン】とある殺し屋の一日
第三章
京処の中心地は、人でごった返していた。
そのさらに中心を、昔の格好の行列が、ゆっくりと進んでいく。

「ん~、いつもながら、行列は豪華絢爛ねぇ」

小さな藍は、するすると人混みをすり抜けていく。
行列を追ってちょろちょろと進む姿は、まるで子供だ。

「ら・・・・・・お嬢さん、あんまり先に進むと、迷子になりますよ」

前を行く藍に、声をかける。
与一は外では、『藍さん』とは言わない。
稽古場のような、まず人のいないところなら別だが、このように人の目の多いところでは、正体がバレるようなことは、極力避けるべきだ。

『殺し屋・藍』は、顔は知られていないが、裏社会ではその名を知らぬ者はない。
故に、外では『お嬢さん』で通している。

「あたしが迷子になるんじゃなくて、よいっちゃんが迷子になるんでしょ~」

ぷん、と妙な意地を張る。
そして、少し戻って、与一の袖を掴む。

「もうちょっと先に、お稲荷さんの屋台があるもの。よいっちゃんも、急いでよ」

「そんなに腹、減ってるんですか」

少々呆れ気味に言えば、すぐさま藍の長い髪が、鞭のようにしなって与一の顔を叩く。

「うわっぷ」

「食い意地張ってるみたいに言うなって言ってるでしょっ!」

振り向きざま、んべぇ~っと舌を出し、つん、と前を向いて、ずんずん歩く。
与一は小さく息をついて、進行方向を見た。

先のほうを見ても、どれが何の屋台かなど、さっぱりわからない。
まして、少し前を歩く藍は、周りの人に埋もれる小ささだ。
一体何を目印に、稲荷の屋台を目指しているのか。
< 17 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop