泳ぐ鳥と飛ぶ魚


体育館には、集められた全国生徒の熱気も加わって、黙っていても背中に汗が滲むような不快な蒸し暑さが籠っている。

夏休みを目前に控えた登校最終日だが、浮わつく賑やかな雰囲気はそこにはなく、どんよりと沈んだ重々しい空気が流れている。
あちらこちらから鼻を啜る音や、嗚咽のような激しい泣き声が聞こえ、伊勢の存在の大きさを改めて知る。


ステージ上に簡易な祭壇が設けられ、入学時に撮ったのであろう伊勢の写真が飾ってある。まだ幼さが残る伊勢は、この館内で唯一、笑っている。



「黙祷」



教師の一声に頭を垂れる。
俺は薄情な人間なのかもしれない、と不安に思う。仲が良かったわけではないにしろ、クラスメートだったはずなのに、彼の死に対して悲しみや寂しさを微塵も感じられない。彼と関わらなかったからこそ現実味がないのだ。
テレビの奥でニュースキャスターが死亡事故を伝えているのをただ傍観している、それに似ている。



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