泳ぐ鳥と飛ぶ魚
「伊勢ってさ、何で死んだんだろうな。自殺かな」
隣から小声で矢野が耳打ちをする。彼も然程伊勢の死に悲しみを抱いているわけでもなく、真相への好奇心の方が強いようだ。
彼は辺りをきょろきょろと見回し、肘で俺の肩を突っつく。
「あれ見ろよ、ほら。C組の。すげえ泣いてる」
矢野の視線の先を辿ると、女生徒が肩を震わせている。口元を掌で抑え、嗚咽を噛み殺すように。
それをなだめるように他の女生徒が肩を抱いているが、その肩も震えている。
彼女のことは知っている。
一年生の時に彼女とクラスが同じで、当時彼女は伊勢と付き合っていた。
彼女が伊勢の文句をよく口にしているのを聞いたし、伊勢のせいで涙を流していたのも見た。
結局、うまくいかず早々に別れたみたいだった。
彼女は今、彼のために泣いている。
生きていても、死んだとしても、女を泣かせてばかりだなんて罪深い奴だな。
俺は心の中で悪態を付く。