正しい恋の始め方。
「あ、噂の」

珠樹が小さく呟いたお陰で、教室のドアを空けた人が誰だか分かった。
案の定、一気に教室内は騒がしくなる。


そんなに綺麗なのか。
気になって、早坂彼方に目をやってみる。



「………あれは」



茶色がかった黒髪に白い肌。どこかで見たことのある容貌だった。


見たことあるが思い出せず、じいっと視線をやると段々こちらへと向かってくる。ざわざわとしている教室内は居心地が悪い。



「市村結子さんですよね?」
「……はい、」
「財布がなくなってません?」


そうだ。
この人はあの店の店員だ。無駄に爽やかな笑顔の。

静かに首を縦にふると、早坂彼方はまたあの笑顔で笑いながら、財布を差しだした。



「……わざわざありがとう」
「どういたしまして。今度から気を付けてくださいよ?結子先輩」



軽く私の頭を撫でた後、彼は教室から出ていった。
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