チョコレート王子とコーヒーお姫様
「ってか、宿題見せてくれね?俺、忘れてさぁ…」
話を変えて、再び神崎君は¨中心¨に。
でも、私の時間は止まったままだった。
多分、私の記憶が間違ってなかったら、いい奴だなんて言われたのは初めてかもしれない。
いいや、初めてだ。
初めて人に、いい奴って言われた。
なんだか、胸の奥がポカポカして気分が良くなっていく。
「―――ありがとう…神崎君」
私は誰にも聞こえない声で神崎君にお礼を言った。
「じゃあ、28ページの問題解いてくれ」
今は数学の時間。
この時間は好きでもないし、嫌いでもない。
でも、今日、この時間が好きになった。
「なぁ、これどうやって解くんだ?」
体を私に近づけて、尋ねてきた神崎。
思わずびっくりして、肩が跳ねる。
「…ゴメン。びっくりした?」
「あ…ちょっと…。でも、平気」
「そうか。なぁ、この問題わかる?」
神崎君はシャーペンの先端で、教科書の問題を指した。
その問題はちょっと難しくて、一応できていたけど、当たっているかどうか不安だった。
「これ……だけど、当たってるかどうか……」
私は自分のノートを神崎君に差し出して、問題を解いたものを見せてあげた。
すると、神崎君はニッコリと笑って¨ありがとう¨と小さな声で言ってくれた。
あの笑顔は反則だ…。
太陽みたいに眩しくて綺麗な笑顔。
私は思わず、ドキッてしちゃったんだ。
これが恋じゃありませんように……。
これが恋でありますように……。
この気持ちが気づかれませんように………。