遊び人な彼に恋しました。


今しかないんだ……


今じゃなきゃダメなんだ……



さくらが離れていってしまうかもしれない、そんな今じゃないと……



「はぁ―…分かってたんだけどなぁ―…」


「平田……」



「春先輩が、誰を見てるかなんて……」



涙を拭い、俺に微笑む。


「だって、春先輩がさくら先輩を見てる時って、凄く愛しそうに見てるんだもん。」


っ!?



そ、そんな表情してたのか!?



「ねぇ、春先輩」


「……ん?」


「もう『行かないで』なんて言わないから、最後にワガママ言ってもいいですか?」


「あぁ、いいよ……」



「音色……って、呼んでください。」



ツラいのに笑う。


切なそうに必死に俺を見る平田。



「音色……」


「っ……」



「音色……」



そっと手を握り、名前を呼んだ。


俺が平田に……音色に出来る最後の恋人らしいこと……



「あり……がと」



震える声でそう言った平田。



『ありがとう』なんて、俺のセリフだ。



愛してくれたのに、愛せなくてごめん……


震えて泣いているのに、抱きしめてやれなくてごめん……



ごめん……



そして……



「ありがとう。音色……」



そばで笑っていてくれて、ありがとう……



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