一目惚れ【短編】
「これ、あげるからさぁ~、ちゃんと顔見ときなよ!!」
そう言い、私に向かって放り投げたのは、手鏡。
私にあたり、ガシャンと地面に落ちてしまう。
「…………」
「せっかくあげたんだから使ってね~~」
なんて言うと、笑いながら去って行った。
「ちょっと……都姫!!!!何で言い返さなかったの!?」
今にも、とびかかりそうな勢いの桂香ちゃん。
ダメ、そんなことしても何にもならないし。
それに、問題起こして学校を退学になったら、シャレにならないでしょ。
「なんでって……ああ言うの嫌いだから。それに……」
「それに?」
「私が、遊君に似合わないの分かってるから」
地面に落ちた手鏡を拾う。
そこに映っていたのは、2つに三つ編みをして化粧っ気のない女の子。
確かに、おしゃれな遊君に似合うはずないね。
夢だったと思おう。
そう、ただの偶然だった。
たまたま、遊君のおとし物を拾ったのを届けただけの……。
それなのに、勘違いして……私、バカみたい。
フフッと笑いながら、
「私、バカだねぇ~」
なんてつぶやく。
拾った手鏡に、ぽたりぽたりと滴が落ちる。
「ほんと、身分知らず……」
そう言って、しゃがみ込む。
「都姫……。ちょっとうちに来る?」
背中をさすりながら、心配そうに肩を抱いてくる桂香ちゃん。
優しいね。
「大丈夫だよ。初めから何も無かったんだから……」
「我慢しないの!!辛くなったら、いつでも連絡してくるんだよ」
「あはは、ありがとう」
桂香ちゃんの、そういう正義感が強くて優しい所が好き。
私は泣きながら笑った。
「桂香ちゃん、帰ろうっか」
「もう、お買い物はいいの??」
「もういいや。疲れたから帰る~」
そう言って、私達は駅に向かって歩き出だした。
だんだん影が伸びていく。
明日から、少し早く学校に行こう……。
あの電車には乗れないや。