一目惚れ【短編】
そして、3週間が過ぎたころ。
私は、これがいつもの日常になり始めていた。
遊君の事は、忘れる努力をしていて、少しずつ記憶から消している。
もう少しで、きっと消えていく。
そう思いながら、一番端の席で参考書を開いた。
その時、
「やっと見つけた」
そんな声がして、顔を上げる。
心臓が飛び出るかと思った。
「……遊君!!!!」
遊君は、当たり前のように私の横に座る。
私は、あわててあたりをキョロキョロと見回した。
幸いこの車両には、学生は私の学校の生徒しか乗っていなかった。
「都姫ちゃん、何で急に電車変えたの??俺、なんかした??」
すごいストレートな質問。
だからって本当の事言えないし……。
「えっ、別に……。少し学校に早めにいって勉強したくて」
私は、参考書を見たまま答える。
---バッ!!
急に参考者が引っ張られる。
簡単に遊君に取られてしまった。
「話すときは、人の目を見なさいって教えられなかった??」
悪戯っぽい顔で私を見る遊君。
全部話しちゃいそうになる。
吸い込まれそう……。
「…………」
「都姫ちゃん、何を隠してるの?」
「隠してることなんて無い……」
「ウソ!!」
私の答えにかぶせて、遊君の言葉が帰ってくる。
「今日、放課後迎えに行くから」
「えっ!?それは……」
「イヤ??」
「…………」
まっすぐに見つめる遊君を、まっすぐ見ている事が出来なくなって、視線をそらす。
「嫌でも迎えに行く。話したい事があるから」
そう言って、私に参考書を返し、降りて行った。