一目惚れ【短編】

「ごめん。私なんかが遊君の隣にいたらダメなんだって……」


「そんな……なんで…」


遊君は、私の右手を掴み握りしめる。


血が逆流したみたいに、全身が一気に心臓になる。

ヤバイよ、ドキドキがとまらない。

そんな事されたら、言いにくくなるじゃん。


でも苦しいけど、言わなきゃ。





「だって……わたし、可愛くない……から。遊君に、似合わない」





だから……。


離れなきゃ。




「……んな風…かよ」




辛うじて聞こえた声。

小さく口から漏れ出した声は、私の耳に届く前に風に掻き消されてしまう。

握りしめられた右手が、ドンドン強くなっていく。



「ゆ、遊君?手……痛い」



「オレが、そういう風にしか人を見ないと思った?」



男の人を怖いと、産まれて初めて思った。

ジリジリと近寄ってくる遊君に、怖くなって後ずさりしてしまう。

捉えられた右手は、離そうとしても無理で、より一層怖くなる。


「遊…くん…こわ…い」


息まじりの声は、遊君に届いてたのかな?

とうとう、背中が木にぶつかり、逃げ場を失ってしまった。

捉えられた右手は木の幹に押しつけられ、遊君の
顔はドンドン近づいてくる。

辛うじて自由だった左手は、行き場を失い、空中を彷徨っていた。



「都姫ちゃん……」



そう言って、鼻がくっつきそうな位近くに顔が……‼



< 27 / 32 >

この作品をシェア

pagetop