男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「・・・あのぉ、すいませんが少しお時間よろしいでしょうか。」
今まで黙っていた芸能関係者が口を開く。
母親とことりは涙を拭って、視線を向ける。
「ここではなんですから、待合室に移動しませんか?」
「わかりました。じゃあ、ことりはここで「いえ、御嬢さんも一緒に。」
「え?」
まさか自分まで呼ばれるとは思っていなかったらしく、
ことりは驚いて声をあげた。
二人は待合室に移動し、言われるがままソファーに座る。
するとスーツを着た関係者が3人部屋に入ってきた。
「私、「スカイ」のマネージャーの木村と申します。」
ス、と名刺を差し出してきた。
母親はそれをうけとり、目を通す。
「陽さんがこんな状況になってしまった直後で、
非常に言いにくいのですが・・・。」
言葉を濁らせて、木村は続ける。
「明日、歌番組の収録があるんです。
近々コンサートもあります。メンバーの中でも人気の高い、陽さんが
抜けての活動は、事務所的にもグループ的にも非常に厳しいんです。」
「え、ええ・・・。」
「たしか、御嬢さん・・・ことりさんは、陽さんとは双子ですよね?
非常に顔が似ていますし・・・。」
「そうですけど・・・。」
木村が何を言いたいのかわからず、母親は不安そうな表情を見せる。
「陽さんの代わりにグループに入っていただけないでしょうか。」
「・・・え?」
「陽さんの意識が戻るまでで結構です。
今、「スカイ」は伸び続けていますし、先ほども言った通り、
陽さん抜きの活動は厳しい。ですが、双子のことりさんが陽さんになり
活動してくれれば事務所的にも助かります。もちろん、ギャラは払います。
お願いします!!!」
関係者全員が頭を下げてきた。
母親は戸惑いを隠せない様子で、ことりを見た。
「・・・どうするの?ことり。」
「え?」
「ことりの判断に任せるわ。」
自分で決めなさい、と母親は言った。