男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「最初から無理って言ってる方が無理なんだよ!」
「はあ?」
「レッスンの時だって、収録の時だってそうだよ。南は俺に突っかかってるだけじゃん!
少しでも人気がでるような努力した!?」
「・・・最初から人気があって、才能のある奴に言われたくねえよ!」
南の気に障ったらしい。
彼もばっと立ち上がり、ことりに言い返す。
「お前には親に期待されてる俺の気持ちがわかんねえだろうな。」
ハッ、と鼻で笑う彼を睨んだ。
どうして閉じ込められた場所で喧嘩なんかしなくちゃいけないのだろうとふと思ったが、
ことりは止まらなかった。
「俺に、才能があるわけじゃない・・・。」
ことりの脳裏には、隠れて一人でダンスや歌の猛練習をしていた兄の様子が思い浮かんだ。
努力したからこそ、今の陽が在るんだ。
その立場を護る為に私だって死ぬほど努力してる。
なんだか馬鹿にされてるような気がして許せなかった。
「俺も期待されてるから、わかるよ!けど、南みたいに妬むだけで何もしない馬鹿じゃない!そっちこそ、何も知らないだろ!」
「知るわけねえだろ!前々から言いたかったんだけど、お前、うざい。」
ことりはぎゅ、と拳を握りしめた。
「同じグループなのに、なんでこんなに違うんだよ・・・なんで、お前ばっかり注目されて・・・。」
弱弱しい言葉を聞いて、ことりの中の怒りがすぅと引いていった。
南はきっと、認めて欲しいんだと思った。
「南、違うのは当たり前だよ。」
「え?」
「南は俺じゃないでしょ。誰かと比べなくても、そのままでいいと思う。」
「きゅ、急になんだよ・・・。」
ことりは、純粋に南が凄いと思う。
自分は陽じゃないからそう思うのかもしれないが、自分とは違いダンスも出来て、歌唱力もある。
トークも上手いし、スカイには不可欠な存在だ。
拍子抜けた南はぽかんとした。
「俺はそのままの南が好きだよ。」
「は、...」
南はことりから目が離せなくなった。
「けど、突っかかるような言い方はやめてほしいな。お、俺でも傷つくっていうか...。」
少し気まずそうに何かを話していたが南の耳には入って来なかった。