男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「お兄ちゃん」
校舎を出て、そのまま全速力で走っていくことりを見つけると楓は叫んだ。
「ことり!!」
本名で呼ばれたことに驚き振り向けば、自分を追って楓が来ている。
しかしことりは、足を止めることは無かった。
けれど楓の方が足が速い為にすぐに追いつかれてしまう。
がし、と腕を掴まれ止められる。
「何があったの。」
「っ、ごめん、私行かなきゃ」
「...僕には言えない事?」
「...。」
押し黙ることりを見て、小さくため息をつく。
「もしかして、陽君の事?」
ぴくり、
肩を揺らして反応を示したことりを見て、楓は腕を掴む力を強くする。
「前は、話してくれるのを待つっていったけど...もう、待てない。」
_____話してよ。
楓は真剣に言った。
じわり、じわりとことりの瞳に涙が溜まる。
「そんな顔してることりを、ほっとけるわけないだろ。」
「かえ、で...。」
弱々しく自分の名前を呼ぶことりに我慢ができなくなり、
楓はそのまま強く抱きしめる。
突然の事に驚いたが、ことりは拒否することはしなかった。
「わたし、もう...皆と一緒に、いれなくなる。」
呟かれた言葉に理解ができず、え?と聞き返すとことりは更に続けた。
「おに、ちゃんが、目を...覚ましたの。
嬉しいはずなのに、私っ、目を覚まさなければよかっ、たって、
酷いこと思ってっ、それで、」
楓は聞きたい事が山ほどあったが、彼女の背中を優しく撫でて落ち着かせる。
すると幾分か落ち着いてきたのか、声音がはっきりとしてきた。
「陽君が目を覚ましたって、どういう事?」
楓は静かに、一番疑問に思った事を問いかけた。