男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「そんなの、無理だよ・・・。」
ことりは力なく答えた。
私がお兄ちゃんの代わりに芸能活動をするなんて、できるわけがない。
お兄ちゃんみたいに歌がうまいわけでもなく、
ダンスも踊れない。
「こちらも全力でフォローします。
よろしくお願いします!!」
さらに深々と頭を下げるマネージャーの木村に、ことりは言葉を詰まらせた。
「陽さんが目を覚ました時に、復帰しやすいようにという意味もあるんです。
あなたの力が必要なんです!」
ことりの頬に、冷や汗が流れた。
陽の為に、自分が身代わりになって芸能活動して、
いったい自分になんの利益になるのか。
助けを求めるように母親を見れば、彼女の顔は真剣な表情へと変わっていた。
「ことり、さっきはお母さん自分で決めなさいといったけれど
陽君の代わりに、お仕事してくれないかしら。」
「え、」
「陽が小学生の時から、必死で努力して手に入れた立場でもあるのよ。
お願いことり・・・陽君の目が覚めるまで、頑張ってあげて。」
「さすがお母様!話がわかってらっしゃる!」
木村は嬉しそうな表情を見せる。
「お母様の許可もいただいたし、ことりちゃん、どうかな?」
「私は・・・。」
さっき、母親は自分の事も気にかけてくれると言って
謝ったばかりなのに、もう陽の事しか見ていない。
「絶対に、代わりになんてならない!」
「ことり・・・。」
「お兄ちゃんが努力して手に入れた立場を、簡単に私に渡してもいいわけ!?
それで本当にお兄ちゃんの為になるの!?それに、さっきも言ったけど
ダンスもできないし歌も歌えないからできるわけないじゃない!」
「何を言っているんですか?」
木村は不思議そうな表情を見せた。
「陽さんの為にならなくてもいいんだよ、ことりちゃん。
事務所の為に頑張ってほしいんだ。」
「ことり、アンタどうせ部活も何も入ってないでしょう?
陽君の為に、頑張りなさい。」
マネージャーは事務所の利益しか考えていない。
母親は陽の事しか考えていない。
そんな二人に言い返す気力もなく、ことりはその場に座り込んだ。