男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
エレベーターから降りて少し歩いたところにある病室の前で止まった。
ことりは自然に手を離すと、緊張しながら扉を開ける。
「ことり!!」
母親は自分の事に気づき、慌てて駆け寄ってきた。
どうやら仕事の途中で抜けてきたらしく服が仕事用のままだ。
「...そちらは、」
自分の隣にいる楓に視線を向け、不思議そうな顔をすれば彼は小さく頭を下げた。
「全部、聞きました。僕も、陽君に会いたくて...。」
「そう、わざわざ有難う。」
礼を言った後に、ことりを見てから苦笑して彼女の頭を撫でる。
頭にのせられた手の意味がわからず、戸惑いを見せているとベッドの方から声が聞こえた。
「ことり。」
ビクン、と肩が揺れる。
この声は、良く知っている。
数日前まで、自分が毛嫌いしていた兄の声だ。
そっと、奥を覗くと今の自分とそっくりな陽がベッドに座っていた。
ことりの目は大きく見開かれる。
「お兄ちゃん!」
自然と、駆け寄って傍まで行くと陽は目を細めて微笑んだ。
その表情を見て、自分はなんて馬鹿な事を考えていたんだろうと思う。
兄が目を覚まさない方がよかったなんて、一瞬でも思った自分が嫌になった。
「っ、ハハ、ほんと、俺とそっくりだな。」
どうやら母親から事情を聴いているらしい彼は、
男装していることりを見ても何も言わなかった。
「~っ!」
何から話せばいいのか全くわからず、感情だけが先走る。
ツツー、と涙が頬を伝って流れた。
「泣くなよ、ことり。」
困ったような表情で彼は私の目元を袖で拭ってくれた。