男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-


「気のせいでしょ。」

楓が誤魔化すように言えば、陽は不思議そうな顔をして頷く。

「まさか、陽君が意識不明なんて思ってなかったよ。」

「俺も、なるなんて思わなかった。」

やっぱり普段から気を付けないと駄目だな、と笑う陽には普段の明るさが戻っている。

事故にあう依然の彼と変わらぬままで、ことりはほっとした。


「...陽君、何時から復帰するの?」


突然、楓がそう問えば彼は そうだなあ と考え込む。

ことりは目線を下に落とし、ぎゅ、と拳を作った。

もう少しこのままでいさせてなんて言えるわけがない。


そんなことりに気づいたのか、陽は妹に視線をうつす。

「ことり、色々と有難う。」

「...。」

「俺のかわりに、スカイとして活動してくれてたことには感謝してるよ。

けど、俺は自分の仕事に誇りを持ってる。

このままことりに任せるわけにはいかない。」

陽の言葉はもっともな事だった。

楓は何も言わずに、静かに耳を傾ける。


「体は少しだるいけど、検査をしたら異常は見当たらなかったから明日退院できるんだ。

だから、明日から仕事に戻ろうと思う。」


ドクン、

心臓が大きく鳴った。


「...ごめんな。」


「わか、ってる。」

そう、初めからわかってたことだ。

陽が目を覚ませば、自分が用無しになる事くらい自覚してた。
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