男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「ごめんな、楓、ことり。」
「もういいよ!私、お兄ちゃんが目を覚ましてくれて嬉しかったよ!
スカイもやめる!もともと、お兄ちゃんが目を覚ますまでっていう約束だったんだから!
わ、私の方こそ、ごめんね。」
ことりは被ったままだったウィッグを取ると、鞄に突っ込んだ。
無理やり笑顔を作り、お母さん呼んでくる!と言い病室を出ていく。
「ことり!」
楓が彼女を呼んだが、止まることはなかった。
「...。」
楓は俯く。
「僕のほうこそ、ごめん。」
陽に向かって謝れば、彼は首を横に振った。
「...僕、ことりが好きなんだ。」
小さく呟かれた言葉は、はっきりと陽に届いていた。
「自分勝手だよね、傍にいてほしいからスカイを続けていて欲しいなんて。」
「...陽は俺だ。」
「うん、わかってるよ。」
だから、ことりはずっとスカイとして居続けることはできない。
彼女の正体を知った時から、わかってはいた。
「陽君、明日からレッスン来るんでしょ?」
「...うん、そのつもり。」
「そっか。じゃあ、僕はそろそろ帰るよ。また明日。」
「またな。」
楓は鞄を持つと、軽く陽に手を振り病室を出ていく。
一人、病室に残された陽はぼうっと窓の外の景色を見ていた。
自分が意識を失っている間に、こんなに変わっているなんて思ってなかった。
「...。」
けれど、スカイとしての森山陽は誰にも譲ることはできない。
陽は俺なのだから。