男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
元の生活へ
*
「ことり、お母さんは陽君を迎えに行ってくるから。アンタは学校に行ってなさいね」
「...うん。」
次の日、母親は仕事を休んだらしい。
朝早くから陽を迎えに行く準備をしていた。
ことりは高校の制服に着替えて学校の用意をする。
前と何も変わらないのに、何故か物足りない感じがした。
陽の仕事用の携帯は昨日返した為に持っておらず、
今後スカイのメンバーと連絡を取り合うこともないだろう。
急な別れに、胸が苦しくなる。
しかし、別れを告げることもできない。
「...ハァ、」
無意識についたため息で、我に返ると時計を見て慌てて鞄を持ち学校に向かった。
「森山せんぱーい!」
「え?」
突然背後から声をかけられ、振り向けば楓の妹の彩乃が居た。
「会うの久しぶりですね!」
「そうだね。」
「一緒に学校行きましょうよ!」
「あ、うん。」
彩乃は綺麗に微笑み、ことりの隣に並んだ。
「森山先輩って、好きな人いないんですか?」
「な、何?急に...。」
「なんとなく。」
じ、と彩乃に見られてたじろいだ。
何処となく楓と似ていて、少しだけ気まずい。
「気になる人もいないんですか?」
「いないよ!」
否定した後で、頭の中に郁の姿が思い浮かんだのはきっと気のせいだと思う。