男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「では、ことりちゃんが代わりになる、という方向で
話を進めてもよろしいですか?」
「ええ、是非。」
ことりを無視して木村と母親の話が進んでいく。
無気力になり、ため息をひとつつくと
ことりはちらりと時計を見た。
午前3時。
真夜中だというのに、不思議と眠くはない。
「明日の朝9時から収録が始まるのですが、
学校の方は大丈夫ですか?できればこのことは内密にしておきたいんですが・・・。」
「ええ、大丈夫です。
私の方から連絡をしておきます。」
さっき、少しだけ母親を許したことを後悔した。
やっぱり、嫌いだと実感する。
「じゃあことりちゃん、明日の7時に家まで迎えにいくから
よろしくね。」
「・・・。」
返事をせず、睨むような視線を向けていると木村は苦笑して
他の関係者たちと待合室を出ていく。
残された母親とことりの間に、沈黙が流れた。
「ごめんねことり。
陽君がこんな状態になった今、協力してね。」
じゃあ、お母さん陽君の病室に行くから。
そう言い残して、待合室を出て行った。
「結局は、みんなお兄ちゃんなんじゃない。」
ぽつりとつぶやいた言葉は、
誰にも聞かれることはなかった。