男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-

「あっ、」

陽と楓は目を見開いた。

目の前に立っている郁はじっと二人を見ている。

「、郁…」

嫌な汗が陽の頬を伝った。
きっと聞かれてしまったに違いない。


「陽…どういう事だ。」

郁は静かに問い掛けた。

楓の表情が強張っているのは気の性ではないだろう。
「その、…」

自分は馬鹿だと心底思った。

「陽…。」

楓が名前を呼ぶ。

覚悟を決めるしかないらしい。



「ごめん、郁。」

「ちゃんと説明してくれ。」
小さく謝罪した陽の肩を掴み、詰め寄った。

「とりあえず、レッスン行こうよ。時間無いし。」

焦っている陽を見て気をきかせた楓が助け舟を出した。

時計を見ると、確かに時間が無い。

郁は陽から渋々離れて、頷いた。


「レッスンが終わったら、ちゃんと説明する。」

はっきりとそう言うと、郁はわかったと答える。

それにほっとした陽は溜息をつき、苦笑して郁にもう一度謝ると今度こそ教室からでる。

表情にはあまりださないものの、酷く混乱していた。

楓は表情を歪めて郁を見た。何故かわからないが、苛立つ。

ことりの存在を知っていたのは自分だけだったのに、
郁にまで知られてしまう事にイライラしているとは気づかないまま、

陽の後に続いた。
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