男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
お泊り
*
レッスン場についたのは時間ギリギリだった。
すでに3人以外のメンバーは揃っていて、振付師の七瀬も来ている。
「遅い!」
「すいません!」
慌てて着替え、用意を済ませると立ち位置についた。
「明日はリハーサルだから、今日は今までの復習ね。
各パートごとに別れて自主練習した後に全員であわせてやってみるから。
各自別れて。」
楓は陽を呼び、新曲の振付やコンサートのパフォーマンスを簡単に説明した。
それだけで陽はわかったと頷き、早速踊りだす。
「言っただけで大体理解しちゃうなんて、さすが。」
「今までの応用だろ、出来て当たり前っ!」
ステップも完全にあっていて、二人は完璧だった。
それを見た七瀬が陽の元に歩み寄る。
「あら、急にキレが良くなったわね。」
「家で練習したので。」
咄嗟にそういえば、納得したように七瀬は笑顔を見せた。
「その調子で頑張りなさい。」
「はい。」
疑いもせずに信じてくれた事にほっとして息を吐いた。
暫く練習したあとに全員で最初から最後まで通して踊ることになる。
こないだまでの陽とは違い、突然ダンスがうまくなった事を不審に感じたのか
柚希が訝しげな視線を向けてきた。
それに気づかないふりをして練習を続ける。
「佐野、今日は全然駄目ね。」
郁のダンスを見て、七瀬が突然呆れたように言った。
視線が彼に集まる。
「...すいません。」
「ちゃんと集中して。」
「はい。」
今日の郁は何処か上の空で、全く集中できていないようだ。
その原因を知っている陽は申し訳ない気持ちになった。