男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
それから3時間、レッスンは続いた。
陽は大体踊れるようになり、明日のリハーサルまでにはなんとかなることを確信する。
「今日はここまで。」
七瀬の言葉に全員がお疲れ様でした、と頭を下げた。
「明日のリハーサル、頑張るのよ。それと佐野、何か悩んでいるようならちゃんとコンサートまでには解決しておくこと。じゃなきゃ、仲間に迷惑をかける事になるわ。」
「...はい。」
小さく返事をする郁は誰から見ても元気がない。
七瀬はため息をつくと、お疲れ様、と言い残しレッスン場を後にする。
メンバーも荷物をまとめ始めた。
「郁、何かあったのか?」
心配した南がタオルで汗を拭きながら話しかけるが、郁は 何でもない と言う。
「...陽君、」
話してきなよ、と楓が声をかけた。
頷き、郁に近づいて遠慮がちに声をかける。
「郁。」
「陽...。」
「場所を変えよう。」
彼が何を話そうとしているのか察した郁は大人しく陽についていく。
不思議そうな表情をしている南と柚希に、
楓は話しかけて2人が出て行った理由を適当に述べた。
*
レッスン場を出て、長い廊下の突き当たりで立ち止り郁を見る。
「で、どういう事なんだ。」
自然と緊張が走った。
郁は説明してくれるのを待っている。
覚悟を決めなくてはならない。
「実は、」
陽が口を開いたときだった。
廊下を走る音がだんだんと近づいてくる。
「お兄ちゃん!!」
足音が止まり、良く知っている声が響く。
陽はバっと振り向いた。