男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
頷く陽を見て、言葉を失った。
そんなこと、あるわけない。
けれど、頭では驚くほど納得してしまっている自分がいる。
「俺、昨日まで交通事故で意識不明だった。
だから、俺の代わりに男装してことりがスカイで活動してくれてたんだ。」
「...嘘だろ。」
「本当だよ。」
陽が嘘をつかないことは知っている。
けれど、そう言わずにはいられないのだ。
郁は陽から視線を外し、もう一度ことりを見る。
「...。」
ことりは何か言われるんじゃないかと考え、怖くなり目をぎゅっと瞑った。
今すぐここから逃げ出してしまいたい。
しかし、待っていたことりに訪れたのは温かい感触だった。
背中に手をまわされ、強く抱きしめられる。
驚いて目を見開いた。
だんだんと自分の状況を理解していくにつれて、混乱してされるがままになる。
(郁に、抱きしめられてる...?)
どうして、なんで、
不安そうな瞳で近くにいる兄に視線を向ければ、彼は困ったように笑った。
郁自身も、どうして自分がこのような行動を取ったのかわからない。
けれどそうせずには居られなかった。
色んな感情が混合して、訳が分からなくなる。
けれど、ことりは嫌ではなかった。
むしろ、ずっとこうしていたいと思ってしまう。
軽蔑される事無く、急に抱きしめられてただ困惑しているからなのかもしれないが、
先程とは違う胸の苦しさがあるのは確かだ。